この夏、大人に心地良い風が吹いている「風立ちぬ」/宮崎駿/スタジオジブリ/2013年/感想

 僕は劇場でジブリを観た事が無かった。

 昨日の夜まで。



 ウチの親が自分も楽しめる洋画ばかりを好んで子供に見せていたのもあるが、何処かアニメは映画館で観るものでは無いような気持ちも僕の中にはあったのです。

 そんな気持ちを打ち破ったのがエヴァだった。

 脚本が奇天烈なほど難解で、更に抽象的過ぎるエンディングを公共の電波で流し物議を醸しだした『新世紀エヴァンゲリオン』が劇場版でちゃんと”補完”されると聞いて、いてもたっても居られなくなり、友人と2時間列に並んで”Air/まごころを、君に”を観たのが初めてのアニメ映画でした。

 行列に並んで映画を観ると言う行為もそれが初めてだったわけだけど、自分達が並ぶ列の更にその上をゆく行列を作っていたのが「もののけ姫」だった。エヴァの産みの親”庵野秀明”が師匠と慕う”宮崎駿”が「紅の豚」から5年振りに新作をインパクトのあるテーマ曲と共に世に出すと言う事と、有名な役者ばかりが参加しているのが呼び水になり、エヴァ以上の旋風を起こしていました。もののけはその後の宮崎作品の人気を下支えする新たなファン達を獲得したした映画でもあったのです。

 しかし、その人気の裏で、宮崎さんは自分の中に存在しない、いや、存在していたと言う過去形で語らなければならない世界を描く事を世の中に望まれ続けて苦しむ事になります。どんなにそれまで夢の国のような世界を沢山アニメにして来た人であっても、年々心も身体も年老いて子供の頃のように無邪気で居られなくなるのは宮崎さんも例外ではありませんでした。映像作りはどんどん進化して美しくなっていったものの、主人公である少年少女に上手く感情を乗せられなくなってしまったのです。
 
 共感し辛いキャラと、有名人の声優起用。この2点に大きな違和感を感じていた僕は、どんどんジブリ作品への熱が冷めて行きました。未だに「ぽにょ」は観ていません。

 なのに『風立ちぬ』は絶対観ようと決めていました。



 劇場に行こうと決めた一つ目の理由は主人公の声担当が”庵野秀明”であった事。こんな人選絶対成功しないような気がして、逆に見逃せないと思ったのです。

 2つ目に、一般向けに行われた試写会で、ファンタジー色の強い宮崎作品のファンや、子供達のウケが悪かったと言う事。

 「ジブリだから」「宮崎駿だから」

 今までの作品から勝手に期待して試写会に行った人達のおかげもあって、確信を持って劇場に脚を踏み入れる事が出来たのです。


 そりゃそうですよね。零戦を作った”堀越二郎”さんの半生を描くと言う伝記的映画で、激動の時代にただ飛行機作りに打ち込んだ男の姿を淡々と描く作品なんてファンタジー好きや子供に理解出来るわけがありません。

 ただ作りたいだけなのに、戦争の道具として望まれる飛行機。現実や最愛の人を差し置いて、欺瞞と矛盾を抱えつつも作らずに居られない二郎の姿は、宮崎駿とダブって見えるはず。いわばこの作品は宮崎駿が宮崎自身のために作ったような物。この作品に共感出来るのは、同じく物造りの先を追求し続けている人か、おのれのエゴと向き合い続けている人が多いはずだ。

 そう考えると、エゴを通し続けて来た庵野秀明と言う男を主役に据えたのは、ミスキャストでは無かったのです。もの静かに「はい」と答えるばかりのセリフ量ですが、庵野秀明から滲み出る人間性が堀越二郎を妙な存在感で満たしていました。

病いに犯されているヒロインが気丈に彼を支える姿と共に、彼らの生き様は人生も半ばに差し掛かった者達の胸を必ず突く事でしょう。


 
 淡々とした映画だと言いましたが、細部まで描かれた躍動感溢れる飛行機の姿はずっと見ていたくなるし、主人公の夢の中を演出する際はファンタジー色が強くなる時もあります。他にも飛ぶ飛行機をイメージ出来た時の抽象的な演出や、えも言われぬ恐ろしさを感じる凄いカット等もあって、絵作りや音(効果音を人の声で表現していたりする)へののこだわりが随所から伝わって来るのも素晴らしい作品です。72歳とは思えない絵作りに、まだまだ宮崎駿は現役だと思わされました。

 こんなにきっちり昭和の日本をアニメに出来るアニメーターは、高畑勲さんを除くと、もう宮崎さんだけかもしれませんね。これを観た後に「コクリコ坂から」なんて見る気にもなりません.....



 映画館を出た後じわじわ来る切なさ。これが遺作になってもおかしく無いほど渾身の作品だと言えるでしょう。

 もしかしたら興行面では奮わないかもしれませんが、そんな事は関係無く僕はこの作品にYESと言いたい気持ちで一杯です。

 とりあえずお子ちゃま達はこの夏、ジブリを諦めて頂こう。


 今年はおっさんの、おっさんによる、おっさんのためのジブリなのだから♡( ´,_ゝ`)





 公式HP http://kazetachinu.jp

 『「子どもは飽きて走り回り……」ジブリ宮崎駿最新作『風立ちぬ』に賛否両論』

 『まさかの人の声!『風立ちぬ』こだわりの効果音はどこから生まれた?』
posted by lain at 11:16北海道 ☔Comment(0)アニメ