生きる為に死ぬのか、死ぬ為に生きるのか「小指物語」/二宮敦人/幻冬舎文庫/2012年/小説/感想

 いきなりですが、日本でどれだけの人が年間に自殺してゆくかご存知だろうか?

 警視庁が発表しているデータだけでも、平成10年以降は毎年3万人以上の人が自ら命を断っており、世界でも第5位に入る数字で中でも無職の自殺数がダントツに多い。ただ無職と言っても、定年後の方々も無職と呼ばれるのだから、高齢者社会の昨今ならば相応な数字なのかもしれません。


 しかし何故日本ではこれほど自殺者が絶えないのか??

 強い戒律を強いる宗教が無いから? 

 新撰組や忠臣蔵が好きだから?

 神風な腹切り国家だから?

 そんな浅くてふざけた理由でも、明解に存在すればまだ残された者達は戸惑わずにいられるが、自殺者本人が本当は自殺なんてしたくないのに、生きる理由が見つからないからと言う理由で、いずれ誰にでも訪れる「1度」しか経験出来ない「死」に自ら近づこうとするのはまったく理解出来ない話だ。


 それぞれのっぴきならない理由で決めた自殺に理由を求めるのはナンセンスなのは分る。

 でも不可解な自殺が不可解なままでは、同じ人間である『自分』が自殺なんてしないと確信が持てなくなりそうで恐いのだ。

 まったく、生き死にには死ぬまで悩まされる....



 何故こんなテンションの下がる話をしているのかと言うと、今回読んだ『小指物語』と言う本が自殺をテーマにした作品だったからだ。

 冒頭、今にも身を投げ出さんとしている主人公"俗物君"の前に、小指が曲がった怪し気な男"小指"が現れ、もっと面白い自殺をしようと語りだす。

 小指は自殺屋を始めるところだと語り、俗物君は小指の生き死にに関する詭弁に戸惑いつつも、流れのままに小指の仕事を手伝ってしまうのだが、徐々に小指の考え方に怒りと恐怖を覚えるようになってゆく。そして小指が成そうする事を何が何でも止めようとさえ考えるようになってゆくのだが...


 人の自殺を手伝う人。もしくは集団で自殺をしようとする人々は実際に存在しているわけだが、小指が考える自殺は単純に肉体的「死」を目指す物では無いのが面白かった。小指が目指す自殺は、今の自分を解放する理想的な手段をお客に提供しようと言うもので、最初に自殺屋が手掛ける女子高生の自殺も実際に命を断つものではなく、自分と言う存在をリセットする方法を用いた物だった。

 要は大事なのは『心』だと言う事。

 
 序盤はそんな死なずに自殺すると言う発想の転換にグイグイ惹きつけられて読み出したものの、その後肉体的自殺を選ぶ者が出て来てから作者と登場人物と僕との間にすれ違いが始まり、小指の詭弁も俗物君の正論も僕の中では輝きを失っていきました。

 それでも、小指が是とする自分らしく生きる為の自殺と言うテーマは実に興味深かったし、自殺を考えている人の背中を押す本ではなく、ただ肉体的に滅ぶだけで本当にアナタは満足なの?と問い掛けているところが、むやみやたらに自分の考えを押し付けて自殺を止めさせようとする考えとは違いしっくり来る。

 
 生きる意味を見つけられず、ぼんやりと死を考えてしまう人こそ読むべきかもしれない。

 不本意で死ぬのではなく、本意で死ぬ為にどう生きるのかを考えるきっかけをくれただけでも、読んで良かったと思える1冊でした(´-`)


テーマが自殺なので、愉快では無かったが色々と考えさせられる本でした。
posted by lain at 07:16北海道 ☔Comment(0)小説