あの日日本に広がったのは、放射能では無く哀しみだった『萩尾望都作品集 なのはな』/萩尾望都/小学館/2012年/漫画/感想

白装束のような真っ白にエンボス加工で描かれた雨降る街並。そこへ何かを訴えかけるような瞳をした少女がポツンと佇んでいる。そんな寂し気な白・黒・銀しか存在しない空間と作者本人のコメントを載せた帯とともに、萩尾望都さんの哀しみの度合いがひしひしと伝わって来る表紙がとても印象的...

萩尾望都さんの想いがとても痛く切ない作品でした...

※写真ではエンボス加工が判別出来ません


遠い国の悲惨な出来事でしか無かった原発の事故。たとえそれが想定外の大きな震災による津波が原因だったとしても、実際に自国で同じような事故が起きてしまった現在、被災地から離れた北海道に住んでいる僕には想像もつかない対策を講じなければ、まともに生活が出来ずにいる人々がいる事を、この作品集を読んで改めて胸に刻みました。

津波で祖母が行方不明になってしまった少女と家族の苦悩を描いた『なのはな』から、プルトニウム・ウラン等を擬人化し、放射性物質の数奇な運命を描いた短編三部作もなかなかに感慨深く、物質の善し悪しより一度熱を出し始めたらその熱の半減期に2万4千年も掛かる存在を、たかだか100年も生きられない人間が管理して行こうと決めた事自体が、なんて愚かな選択であったかと思わず唸ってしまいました。

まあ結果論から発言したところで、なんの意味も無いし、少なくとも結論を出さねばならない立場にも居ない人間がどうこう無責任な事を言っていけないとは思うのですが、理屈なんかじゃ人々の憤りは収まりません。こうして漫画やアニメとして描かれる事にさえ嫌悪感を感じる人も少なく無い事でしょう。しかしそれでも誰かが想いを形にする事には意義があると僕は思います。偽善でも構わない。何も語らず黙するだけでは、どんな事実にも気付かず通り過ぎてしまうでしょうから。


今日本は全ての原子炉を止め、大きな一歩を踏み出しています。脱原発を叶える事が出来るか否かは全て現在を生きる僕ら次第です。弱い僕らが大事な何かを忘れそうになった時、こうして手に取れる存在を思い出そう。

そうすれば全てが蘇るだろうから....


posted by lain at 05:13北海道 ☔Comment(0)漫画