なまえのないゆうじん

 今ほど今じゃ無い時代、彼の世界は小さなこの家の中にしか無かった。


 ぴこぴこぴかぴかした電子の世界なんて夢の話。彼の手で触れる事が出来るコトバだけが現実だった...


 そしてその現実から夢や愛を作り出した...




 町より外れた田畑が豊かな場所にポツンとたたずむ青い家。そこには両親と暮らす三姉弟がおりました。姉2人弟1人なので、弟君はいつも一人で遊んでいます。友達と遊ぶにしても、彼の家からは遠過ぎたからです。


 でも姉2人が遊んでいるのを見ていると淋しくなってしまいます...「ぼくもなかまにいれて」そう彼は御願いするのですが、「え〜、でも男の子が女の子の遊びは変だよ」と、仲間外れにする始末。しぶしぶ遊んでくれても、いつのまにか一人っきりにされてしまう....


 そんな時、彼がいつも話かけるのは、青い蝶ネクタイをした犬のぬいぐるみ。もの言わぬ彼の友人は、物心ついた時からずっと側にいてくれた掛け替えのない存在。ブロックで遊んでいる時でも、絵本に夢中の時でも、眠りにつき夢を見るときだって一緒。


 あるとき、そのぬいぐるみを姉達が耳を持って振り回した時なんて、泣きながら彼は「やめて!」と叫んだ...友人の痛みは自分の痛み、彼にとってそれほど犬の姿をした友人は大事だった...



 が、しかし、時が流れ沢山の人や物に魅せられていく彼は、いつのまにか幼い頃の友人を忘れてしまった。それどころか、彼は友人を捨ててしまう.....ホントにそれでいいの?



 更に時は流れ、彼も父親と呼ばれてもおかしくない年頃を迎えた。目にするもの全てが新鮮だった時代は終わり、彼は目に映る全てに新鮮さを感じなくなった....淋しさを分け合えた人間の友人達も、それぞれ事情を抱え彼の悩みに付き合う暇など無い...彼はまた一人きり......



 そんな生きる糧に飢えている彼の元に、また友人が戻ってきた。そう、あの寡黙な友人がだ。彼が捨ててしまった友人を、母親がいつか産まれるであろう子供達の子供の為にとっておいたのです。



 うれしそうに友人を抱きしめる姉の子供達。彼が一人きりにしてしまった友人は、もう一人きりじゃなくなりました。また愛してくれる友達が出来たから....



 そう言えば、彼はぬいぐるみの友人に名前はつけませんでした。不思議に思い聞いてみると、「彼は友人だから」それが彼の答えでした....


 青い蝶ネクタイの友人は、今もまだ彼にとってかけがえのない友人であり続けています........


 写真-224.JPG
posted by lain at 15:04北海道 ☁Comment(0)雑記